愛酵会の先原です。
皆様の実益を兼ねて、2022年に、
主に旅先で出会った魅力的な飲食店を、
訪れた月別にご紹介します。
いわば「旅先の酒場放浪記」です。
お近くにいらした際にお役に立てば幸いです。
1月
★魚庄(鹿児島市中央町24-18 099-250-2325)
開聞岳登山で泊った鹿児島中央駅の、
東口商店街にある店。名の通り魚貝料理が
主役で、カメノテ(亀さんの手ではなく、
磯に付着している美味な甲殻類)、〆鯖、
カンパチとキビナゴの刺身、アラの唐揚げなどを
堪能した。
鹿児島の飲み屋にしては珍しく日本酒の品揃えが
充実しているのも嬉しい。
<開聞岳>
2月
★ラ・キュイジーヌ・ド・タクミ
(静岡市葵区鷹匠1-11-9 050-5368-2270)
竜爪山登山で泊った静岡駅近くの店。
事前にネットで見繕った飲み屋が、
コロナ禍で半分は休業、残り半分は予約が
集中して入れず…。
歩き回った末にたまたま空きがあったので入った店。
30代ぐらいのシェフと若い女性の二人で
切り盛りしている小ぢんまりした
カジュアルな店で、トリッパ煮込みと
仔羊の冷製ローストで赤ワインを一本空けた。
なかなか美味で、ぜひまた来たいと思う店だった。
<静岡市役所>
3月
★酒房亜耶(奈良市小西町5 0742-25-0272)
古寺社巡りで何度訪れたか知れない、
京都より身近な奈良市。
酒房亜耶は、近鉄奈良駅近くのビルの2階に
ある店で、奈良県の日本酒の品揃えが
実に充実している。
サヨリの刺身、菜の花酢味噌和え、
シマアジのなめろう、ベニテグリの天婦羅と、
生原酒4種。
ベニテグリというのはメゴチの仲間の魚
だそうだが、ほとんどササミのような味わいだった。
個人的には、奈良に来たらもうここしかない!
<薬師寺東塔>
★五十六屋(大分市都町2-3-4 097-535-7791)
古寺社巡りで訪れ、都町界隈を
歩いてたまたま入った。
刺身盛り合わせ、ヒラメの肝和え、
椎茸炭火焼き(巨大!)、乙姫にんにく天婦羅。
日本酒も豊富で、杵築・中野酒造の
「ちえびじんBlanc Cuvée」が
生原酒風の味ですばらしかった。
<大分市・旧二十三銀行本店>
4月
★さか盛
(島根県大田市大田町大田イ335-1 0854-82-3891)
三瓶山登山で2泊した大田市内の店。
初日に入った「かたやま」という店も、
巨大なアジの南蛮漬けや特産の大田アナゴの
白焼きが美味で「推し」だったが、2日目の
「さか盛」が伏兵だったのでこちらを紹介する。
人気の少ない住宅地(というか、大田市は
どこも人が少なかった…)の小さなビルの
1階にあり、外見はご近所の人たちがたまる
普通の居酒屋にしか見えない。
他の店が予約一杯だったり、「県外客お断り」
だったりして(怒怒怒)、メニューも
分からないまま駄目元で入った。
60~70代ぐらいの大将と、40歳位の女性
(ただのパートさんか、娘さんか、年の離れた
奥さんか??)の二人でやっている。
イワシの造り、煮付け、島ラッキョウの天婦羅を注文。
この煮付けが感動ものだった。大きなトロイワシを
お湯でさっと煮た上に煮汁をかけ回したもので、
身がぱさぱさに煮締まらずトロトロ。
煮汁もしょっぱすぎず日本酒にうまく合う。
一口で大将の実力にKOされた。
偶然こんな宝石のようなすごい店に
出会えると思うと、ネットで下調べするのは
やめようかと思った。
ちなみに大将の名前、
「坂森博」さんというのだった。
飲み屋を開くためのような名字ではある。
<三瓶山>
★昌楽
(埼玉県秩父市東町4-8 0494-88-9003)
武甲山に登るために秩父市内に前泊した。
昼は手打ち蕎麦、夜はワインバーという、
筆者にとってどちらもうれしい店で、
2019年春に昼に入ってから、夜訪れるのを
楽しみにしていた。
ワイン、日本酒と、それに合いそうな地元食材の
天婦羅などを出してくれる。
まだ若い店主は以前、渋谷の富士屋という、
吉田類も来た立飲み居酒屋で働いていたそうで、
「富士見のように安くて美味しい肴と
酒を提供したい」というのが自分の店を
持った抱負だそうだ。
その気持ちがしっかり表れた店だった。
<武甲山登山道の新緑>
5月
★小助
(長野県上田市中央1-1-20 0268-75-7933)
古寺社と近代建築巡りで上田へ。
駅から6~7分の大通りに面した店。
栃尾揚げ、イシダイ刺身、
馬肉藁焼きと日本酒3種。
「さか盛」ほどあっと驚く店ではないが、
十分満足できた。
<旧上田蚕糸専門学校講堂>
6月
★レストラン・メープル
(栃木県日光市中宮祠2482 0288-55-0713)
奥日光の小太郎山に一日がかりで登った後、
中禅寺湖畔の民宿・白樺に泊まった。
このレストランは民宿に併設。
夕食は魚か肉のコースを事前に選ぶ仕組みで、
魚コースは鹿肉の佃煮、手製の鴨のパストラミ、
ヒメマスの卵のワイン漬けを載せたチーズ、
サラダ、コーン・ポタージュ、ヒメマス丸一匹の
ムニエル・焼き野菜添えとご飯。
奮発して手製の鹿肉スモークも足してもらった。
どれも手をかけた丁寧な味付けで、発泡ワインに
よく合った。
窓からは、霧雨に煙る中禅寺湖、
湖畔の広葉樹の巨木の並木が見え、
そこで鹿肉やヒメマスに舌鼓を打っていると、
まるでコモ湖かどこかヨーロッパの山間の
湖畔の町にいるような心持になった。
次回は肉のコースにして、半月山や社山に登ろう。
<小太郎山より男体山>
7月
★BAR
(神奈川県相模原市緑区橋本6-19-5 050-5352-5179)
橋本駅近くの、日本酒とワインを主役にした店。
料理はそのつまみという位置づけで、
一皿の量は少ないが、これぞ酒の肴という感じの、
なかなか凝った品々が供される。
同窓生と腰を落ち着けて飲みまくったので、
細目の記憶が曖昧。
お酒好きにはたまらない店であることだけは保証する。
8月
★ムルテル・ロープウェイ駅(スイス・サンモリッツ近郊)
2019年以来3年ぶりの海外旅行で
ヨーロッパ・アルプスへ。
サンモリッツのホテルを根城に、5日間近郊のアルプスを
ハイキングした。
ムルテルはロープウェイの駅で、
小一時間歩いたフォルクラ・スレーユという峠には、
ベルニナ山群の最高峰ピッツ・ベルニナを望む池がある。
そのハイキング・コースを往復し、駅の食堂で戸外の昼食。
ハイデルベーレという果実のタルトを注文した。
タルトだが甘さ控え目で酸味が豊かなので、
甘いものは苦手の筆者も気持ちよく平らげた。
日本のタルト、甘過ぎ!
<フォルクラ・スレーユよりピッツ・ベルニナ>
9月
★六鮮・通天閣本店
(大阪市浪速区恵比須東1-17-7 050-5589-9184)
京都で近代建築巡りをした後、所用で大阪泊まり。
通天閣の真ん前に鮨屋兼飲み屋があり、
随分大きな店なのでちとひるんだが、
メニューが多彩なので入ってみた。
鰻の肝焼き、〆鯖、ふぐの唐揚げ、ニシンと茄子の
煮浸しにビールと日本酒。
どれもちゃんと美味しかった。年配のおっちゃんたち、
若いカップル、家族連れなど三々五々入ってきて、
楽しそうに語らいながら食べている。
地元の人に愛される、くつろげる店だと分かった。
しかもさすが大阪、随分安くで済んだ。
調理場の人たちが寡黙で、板長さんらしいおじさんは、
烏帽子を被ると中世の料理人に見えそうな、
眼光鋭い人だった。
<通天閣>
10月
★朱鯱(あかしゃち)
(新潟市中央区東大通1-2-9 025-290-6410)
新潟・福島県境の浅草岳に登った後、新潟泊。
駅界隈をさまよった末に見つけた店。
今風の店内なので警戒したが、酒の品揃えは凝っていた。
中でも、小布施ワイナリーがワイン造りの手が
空いた時に仕込むという「ヌメロシス」という
日本酒が秀逸だった。
なめろう(あれば必ず頼んじゃう)、バイ貝煮付け、
砂肝のカレー揚げを頼んだが、カレー揚げが
予想以上に美味で、どのアルコールにも合いそう。
<浅草岳中腹の紅葉>
11月
★魚丸
(滋賀県彦根市旭町7-21 050-5594-9068)
伊吹山登山で彦根市に前泊。
駅近くの「いっぺいちゃん」という小さな飲み屋は
夫婦で2回入ったことがあるが、今回は
満席のようだったので、その近くの「魚丸」へ。
随分広い店で、ひっきりなしに
勤め人たちが入ってくる。
つまり地元の人たちに重宝されている店なのだろう。
サワラ炙り、カキ蒸し、蓮根の天婦羅、
鴨の藁焼きと日本酒。つきだしがキュウリと味噌で、
お代わりできるという面白い趣向。
藁焼きは店の自慢らしく、鴨はまるで
フランス料理のローストのように上品に
仕上がっていた。
店を出ると皆既月食の赤い月…。
<伊吹山>
★晩屋清次郎
(山形県鶴岡市末広町6-19 0235-33-8751)
国宝の羽黒山五重塔が2023年から
修復工事でしばらく見られないと新聞で知り、
慌てて見に行った。
鶴岡の町はどこも閑散として
飲み屋が少なかったが、その数少ない
店の一つで、新鮮な海の幸が売りらしい。
刺身盛り合わせ、揚げ出し豆腐、鶏唐揚げと
日本酒2種、山形のヤマソービニオンの
赤ワインで満腹。
つきだしが2品出たり、小グラスで
別な日本酒を試飲させてくれたり、
お土産にスナック菓子が付いたり、
サービスが変に良かった。
<羽黒山五重塔>
12月
★Hablamos
(京都市南区東九条北烏丸町6-6 075-748-7882)
京都の西の愛宕山に登った日に
「一人打上げ」で入った、京都駅八条口近くの
スペイン・バル。タパスという小皿料理を
中心にメニュー豊富。
最初に出た「京野菜のガーリック焼き」
というのにびっくり。
ガーリックも塩も油も控え目で、
野菜の甘みとうま味が力強く、フルボディの
赤ワインにしっかり合った。その後、
牛肉のロースト(グリルだったかも)、
牡蠣のアヒージョ、羊乳のチーズなどで
赤一本空けてしまった。
店長らしい方は、40歳頃の平田満に似た
物静かな人だが、新入りらしいスタッフにも
仕事の手順を穏やかに指導していた。
調理場の人たちも明るく(おしゃべりではない)
いそいそと働いていて、「料理をするのが楽しい」
という空気が伝わってきた。見ていて、
こんな店の調理場にカメラを据え、
お客抜きでスタッフの動きだけ撮影したら
面白いドキュメンタリーができるなと思い付いた。
<愛宕山より京都市街>
<Hablamos店内>
★十和田
(厚木市中町2-5-22 046-224-8510)
小田急本厚木駅至近の、名前も店構えも
「これぞ昭和!」という感じの飲み屋。
以前山の会で丹沢東部の低山に登った帰りに
発見、料理の種類の多さ、安さ、美味しさに
たまげて、以来この地域に山仲間と
登った時には必ず立ち寄る。
2022年の『吉田類の酒場放浪記』に
「厚木編」というのがあったので
「もしや?」と思ったら、案の定この店だった。
今回は18日の日曜に足柄峠近くの矢倉岳に登り、
打上げで挨拶。何と、関東ではめったに
出会わないニシンの刺身と、ニシンの
なめろうまであり、全員異議なく注文。
他に、豆腐に太刀魚の身を巻き付けた揚げ出し、
パクチーの入った大型餃子、
安心の味の塩焼き鳥などで一同満足。
「日月定休」と書いてあったが、
ちゃんと開いていたのはなぜ??
<足柄峠より愛鷹山、富士山>
こうして振り返ると、調理場の人たちが寡黙で、
接客の人がマニュアル喋りでなく
普通の会話をしてくれる店は、
だいたいはずれがないようです。
愛酵会 先原章仁