【JJC通信】哀しみの保健室 vol.5 私達を支える8つの繋がり<過去> 

充実人生クラブの皆様、こんにちは。


『哀しみの保健室』の前川美幸です。


連載5回目の今日のテーマは
「過去」についてです。



前回までに「人生を支える8つの繋がり」
として「社会」「友人」「家族」の
3つをとりあげてきました。


自分以外の何かとの繋がりを持たずに
生きようとするスタイルは、
現代日本においてはかなりの少数派です。


とはいえ例えば
「俗世を離れて出家する」といった
人生を選んだ場合、「社会」や
「友人」「家族」との関わりが
少ない生活を送ることが、今の
日本人でもある程度は可能かも知れません。


「社会との繋がり」も
「家族や友人との関わり」も、
言ってしまえばすべて自分以外の人間との
関係性が土台です。


そして「自分以外の何か」との関わりを
極力断つことは、物理的には
ある程度可能と言えるでしょう。


ですが自分にとっての「過去」は、
他ならぬ自身の記憶や認識でも
ありますから、まぎれもなく
その人の一部です。


精神的な意味での「その人自身」と
言い切っても過言ではありません。


誰もが自分自身の過去において、
様々な体験を重ね、自分とは
どういうものであるか?の自己認識や、
世界観を確立していきます。


「大切な何かを失う」ことは
「その対象との間に築きあげてきた
過去の全て」が失われる体験です。


そしてそれと同時に、その過去において
築き上げてきた自分自身の存在意義を
失うことにもなります。


大切な我が子を突然の事故で失った場合、
その子のために努力してきた一切が全て、
無意味であったと感じることで、
その喪失悲嘆は一層強まります。


長年に渡り苦楽を共にしてきた伴侶を
病で失った場合にも、一緒に過ごした
日々の積み重ねが全部、
無駄になってしまったようで絶望感に
打ちひしがれます。


自らの過去との断絶、とくに
大切な人と過ごしたかけがえのない日々と
かけ離れた「現実の今」を生きることは、
当事者でなければわからない
重すぎる痛みがあります。


そして、当事者かつ体験者であっても、
その痛みの重さや複雑さは、
その人ひとりひとりによって
全く異なります。


誰の人生にも過去からの苦悩があり、
それと同時にそうした葛藤を
抱えながらも生き抜いてきた
軌跡があります。


また、みずからの痛みを
どう受けとめるは、人それぞれに
大きく変わります。


痛みを弱さと捉えるか、強さと
受けとめるかは個人の自由であり、
どれもがその人固有の大切な価値観です。


対人援助職に関わらず、大切な
何かを失い、悲しみにくれる誰かに
寄り添う際には、目の前の相手の
どのような価値観も尊重し否定しない
在り方を目指したいものですね。


自分自身が過去にどのような
喪失悲嘆を抱え、それが今の自分に
どのように影響しているのか?


弱さもふくめた自分の過去を真摯に
受けとめる強さを身につけることが
できたなら、どのような未来であっても
ゆるぎない人生を築いていけるように
実感しました。


8月は故郷に帰省し、今は亡き大切な
人の遺影や墓前の前に立つ人も
多いことでしょう。


そうでなくても、自身が歩んできた人生の
軌跡をふりかえり、今に至るまでに
失ってしまった何かや、だからこそ
得てきたギフトについて、想いを
馳せる機会を持って頂けたら幸いです。




前川 美幸(まえかわ みゆき)


一般社団法人 日本グリーフ専門士協会 理事


グリーフ専門士養成スクール トレーナー


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