【JJC通信】哀しみの保健室 vol.2 私達を支える8つの繋がり<社会> 




皆さん、こんにちは。


日本グリーフ専門士協会の前川美幸です。


「人生における様々な喪失悲嘆について、
どう関わり支えていくか?」
というテーマに沿ってお届けしていく
シリーズの今日は2回目です。


グリーフとは「喪失悲嘆とその反応」を指し、
狭義では死別による喪失悲嘆を意味する
ということを前回、お伝えしました。


これをお読みくださっている皆さんの中にも、
大切な人との死別を体験された方は
少なくないと思います。


今なおその深い喪失悲嘆を抱えながら、
毎日をどうにか過ごしておられる方も
おられるかも知れません。


日本グリーフ専門士協会では、具体的に
何からの断絶が大切な人との死別により
起きてしまうかについて、8つの側面から
検証しています。


その8つとは、
「社会」「友人」「家族」「過去」
「自然」「思想」「故人」「未来」です。


今回は「社会」という側面について
今から解説します。


私たちは日々、様々なものとの
繋がりによって支えられながら、
この世に存在しています。


中でも「社会」との繋がりは
私たちにとっては必要不可欠な
かけがえのないものです。


私たちは決して一人では
生きられない存在です。


生まれて以来、私たちは様々な社会に属し、
多くの人に支えられながらここまで来ました。


幼稚園から始まり、小学校、中学校、
高校、大学、会社。子供がいれば
保護者会やママ友関連の集い、
社会人としての趣味やサークル、
住んでいる地域での町内会などあげれば
キリがありません。


大切な存在を死別で失った場合はとくに、
誰もが想像を絶する喪失感に苛まれます。


これまでと変わらない日常生活を送ることが
不可能となり、今まで所属してきた
どのコミュニティであっても、
足を運ぶことが困難になりがちです。


たとえばお子さんを事故で失った
ご夫婦があったとします。


子育てに熱心にとりくみ、ご主人は
長年PTA会長を歴任、奥様も子ども会の
お世話などを堅実につとめあげてきた
場合はどうでしょう?


これまで大きなやりがいを感じ、
多くの人から慕われ続けてきた
役割ではあっても、その子が
死別したことにより、子供つながりで
築き上げてきたコミュニティに
所属することに痛みを感じてしまう人が
ほとんどであるでしょう。


ほんのすこし前までお互いに子育てに
追われる毎日の中で、親としての様々な想いや
悩みを共有してきたはずです。


ですが死別をキッカケに、自分だけが
誰よりも大切であったはずのわが子を
二度とこの手に抱くことが
できなくなってしまったのです。


他の親御さん達が、死んでこの世から
消えてしまったわが子と歳が近い
お子さん達と、これから先も共に
生きていけるのであろう姿を
目の当たりにすることは、とても
忍びない心境であると思われます。


PTAや子供会といった人間関係のみならず、
学校という場所そのものに、大切な
かけがえのないわが子との思い出が
あふれすぎて、足を運ぶことが
怖くなるかも知れません。


お子さんを軸に繋がり深まってきた
間柄であるからこそ、その存在を
失ってしまった以上は、どうにもその関係性を
維持することがその死別直後には
とても厳しくなる。


もし自分がその立場に
立たされたならば、そうもなるだろうと
実感せずにはいられません。


2018年に全国で起きた交通事故による
死者数は、前年度より162人減少の
3532人で統計が残る1948年以降、
過去最少であったそうです。


とはいえ、昨今は高齢者ドライバーによる
死亡事故が増えました。


また自転車に乗った若者による
スマホを見ながらの脇見運転によって
歩行者が死亡するなど、これまでには
なかった事故も出てきました。


飲酒運転や無謀運転による死亡事故
のみならず、ちょっとした判断ミスが
大きな事故に繋がる例も少なくありません。


散歩中の園児らを巻き込んでの
交差点での大事故も、皆さんの記憶に
新しいことと思います。


大切なお子さんを亡くされたご家族の心情が
どのようなものであるかは、当事者以外には
毛頭わからないものです。


そして同じくお子さんを失った立場とはいえ、
そのお父さん、お母さんの喪失悲嘆は
夫婦それぞれにまったくちがいます。


誰もがその人以外には理解しがたい深い苦悩を、
死別のその瞬間から生涯背負って
生きていかれることになります。


最近の子育て世代は両親ともに共働きである
家庭が多くなりました。


しかし、お子さんを亡くした直後に職場に
出勤することは、心情的には本当に
大変なことです。


長期の休職を余儀なくされる方も
相当あるでしょう。


そのまま復帰することなく、長い時間を
家の中で亡くなった子を想い過ごすという
ケースも少なくありません。


また先にとりあげた交差点での園児らの
死亡事故では、その傍らには保育士さん達が
数名おられました。


引率していた園児を目の前で失うことに
なった方々にとっても、本当にいたたまれない、
想像を絶する痛手です。


その後、やはり園児の列に自動車が突っ込む
という事故が別に起こりました。


その事故では死亡者は出ず、「園児をかばった
保育士が大怪我を負った」というニュースが
何度も流れました。


先の死亡事故の保育士さん達がその報道を
どのような気持ちで聞かれたのでしょうか?


成長を見守り続けてきた大切な教え子を
目の前で失うという現場に居合わせた
あまりの衝撃は、想像するにも本当に
胸が痛みます。


「大切なかけがえのない命、さまざまな
可能性に満ちた未来を守ることが
できなかった」という後悔と罪悪感を
一生背負い、この先を生きていくことに
なるかも知れません。


そして長年来の夢であり大きなやり甲斐を
持って従事してきた保育士という職業を
続けることに困難を感じておられても、
決しておかしくないように私は感じました。


大切な存在との死別により、これまで
そこに属しているのがあたり前だと
信じて疑わなかった社会的なつながりが
一瞬にして絶たれるということは、
どのような死別であっても起こり得ます。


だからこそ、より深くより広く、様々な
繋がりを大切にしていくことが、
とても重要です。


今ある繋がりのひとつひとつを大事に育て、
ゆるぎない絆にしていくことが、
死別も含めた人生における様々な
喪失悲嘆に見舞われた時の大きな
心の支えになります。


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前川 美幸(まえかわ みゆき)


一般社団法人 日本グリーフ専門士協会 理事

 
グリーフ専門士養成スクール トレーナー


看護師・介護士のためのグリーフケアを学べるサイト

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