【JJC通信】菩提樹 ② 〔充実人生コンサート〕vol. 2 

皆さん、こんにちは。
充実人生コンサートの安納一郎です。
 
 
前回のJJC通信「菩提樹」①では、
歌曲「菩提樹」がドイツ民謡として
広まった経緯を書かせていただきましたが、
今回は原曲の「菩提樹」が、シューベルトの
歌曲集「冬の旅」中に、どのように
組み込まれているのかご紹介します。
 
 
とはいえ小生も詳しく
勉強しているわけではないので、
文献からの引用になってしまいますが、
どうぞご容赦ください。
 
 
「美しき水車屋の娘」「冬の旅」
「白鳥の歌」は、シューベルトの
三大歌曲集と呼ばれています。
 
 
その中で「水車屋」と「冬の旅」は、
ヴィルヘルム・ミューラーの詩に
作曲されたもので、いずれも
中世ヨーロッパの徒弟制度が
背景にあるとされています。
 
 
「冬の旅」は、恋に破れた若者が
町を捨てて旅に出る物語、と
一言で言われることが多いのですが、
実は厳しい徒弟制度の社会の中で、
突然その社会に背を向けた主人公が、
その後、どう生きていくのかが
テーマになっています。
 
 
徒弟制度の社会では、まず親方に
弟子入りし住み込みで仕事を学び、
10年程度修行をすると「職人」
となって、別の親方の下に一定期間ずつ
住み込んで仕事をしながら、
腕を磨いていきます。
 
 
「職人」は、まだ「一人前」では
ありません。給金はもらえるものの、
金額は僅かです。
 
 
市民権を得るには、さらにその上の
「親方(マイスター)」に
ならなければなりませんが、
そのためには技術はもちろん相当な
お金も必要で、なかなか道は
険しかったようです。
 
 
一方、20歳前後の多感な時期に、
「職人」として町から町へと旅を
続けるうちに恋が生まれることもあり、
「冬の旅」や「水車屋」も、
その恋が前提になっています。
 
 
「冬の旅」の主人公の「職人」は、
この町にやって来て「親方」の
下で働き始めます。
 
 
そして、親方の娘に恋をします。
恋は順調に進んで、娘の母親の
口から結婚の話が出るまでに
なりました。
 
 
しかし、ある時、その恋は突然
破局を迎えます。そして、彼は
絶望のあまり町を飛び出して
しまうのです。
 
 
夜、娘の戸口に
「おやすみ(Gute Nacht)」と
書いて去って行きます。
 
 
「冬の旅」は、主人公の重い
足取りのような前奏で始まります。
第1曲「おやすみ」です。
 
 
やがて着いたのが町の出口の門、
そこには泉があり傍らに一本の
菩提樹が立っています。
 
 
主人公は この樹が大好きで、
かつて恋がうまくいっていた頃には、
仕事の合間にこの木陰に来ては
甘い夢をみていました。
 
 
そして、その樹皮に愛の言葉を
書き込みました。
 
 
今、真夜中に菩提樹の前に立って
目を閉じると、風にざわめく
枝の葉音が、まるで自分に
語りかけているように聞えます。
 
 
「友よ、私の下に来い。ここに
お前の安らぎがある。」
 
 
突然、冷たい風が吹き付けて
かぶっていた帽子を吹き飛ばしました。
しかし、彼は、それを拾おうともせず、
そのまま町を出て行ってしまいます。
 
 
彼の心の中では、何時までも
さっきの枝のざわめきが聞えていました。
 
 
「友よ、私の下に来い。
ここにお前の安らぎがある。」
 
 
第5曲「菩提樹(Der Lindenbaum)」です。
 
 
無断で親方のところを飛び出した彼は、
もはやどの親方にも雇って
もらうことはできません。
 
 
将来「親方」になる望みはもちろん、
現在の「職人」の地位も失ってしまい、
路頭に迷うことになります。
 
 
それは、自ら社会を逸脱してしまった
ことを意味します。
 
 
しかし、この時の主人公は、
まだ事の重大さを認識していません。
 
 
それに気付いた時、この主人公は
どうするのか、そして彼は最後に
どこに行き着くのか、それこそが、
シューベルトが歌曲集「冬の旅」に
込めたテーマだといわれています。
 
 
なお、「冬の旅」の歌詞からは、
主人公の身分や失恋の理由などは
一切分かりません。
 
 
先程の解釈は、主として参考文献2の
笠原先生の説に基づいていますが、
「冬の旅」には色々な解釈があり、
諸説ある中の一つとして読んで
いただければと思います。
 
 
「菩提樹」の原曲にはシューベルトの
深い思いが込められているということを
お伝えしたくて、拙文を投稿させていただきました。
 
 
参考文献1:冬の旅 24の象徴の森へ
(梅津時比古著 東京書籍発行)

同2:放送大学教材 西洋音楽の歴史
(笠原潔著 放送大学教育振興会発行)

同3:シューベルトの「冬の旅」
(イアン・ボストリッジ著
岡本時子・岡本順治訳
アルテスパブリッシング発行)

充実人生コンサート
統 括 安 納 一 郎
~白髪のテノール~

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